米農業の公営化で諸々の問題を解決できるのでは?
日本の農業は長らく「高齢化・担い手不足・規模の非効率化・食料自給率の低下」という課題を抱えてきました。そこで一つの仮説として「米農業の公営化」を考えてみたいと思います。もちろん過去にソ連や中国が公営農業を行って失敗した歴史はありますが、その教訓を踏まえれば日本型の公営農業は十分に機能する可能性があります。以下では、よくある懸念点を一つひとつ潰しつつ、公営化によるメリットを整理します。
懸念1:インセンティブがないとサボるのでは?
確かにソ連や中国の公営農場では「働かなくても配給がもらえる」構造が労働意欲を削ぎました。しかし、現代の日本では事情が異なります。消防士や教師も公務員でありながら使命感ややりがいで働いています。農業もまた「耕す喜び」「収穫の達成感」という内発的動機が存在します。
さらに、昔に比べて収穫量や天候データの可視化が容易になったため、「誰がどのくらい働いたか」「どの地区の成果がどうか」を明確に把握できるためサボりは見えやすい時代です。つまり現代の公営農業では「情報公開による牽制」が効きやすく、効率は維持されやすいのです。
懸念2:過剰生産で余るのでは?
むしろ「余剰分を備蓄米として活用する」ことで、食料安全保障を強化できます。災害や国際紛争で輸入が止まった場合に備蓄米があれば日本の強みになります。備蓄は必ずしも「余分に作る」のではなく、「結果的に余った分を備蓄に回す」方式にすれば効率的です。
懸念3:雇用形態はどうするか?
基本は正規の地方公務員として雇用する形になります。災害時には農地近くに常駐する必要があるかもしれませんが、平時には農業業務が少ない時期もあります。その場合には「リモートワークで他の行政業務を兼務」することも可能です。
現代のICT環境を使えば、農業の繁閑期に応じた柔軟な人員配置が可能です。これにより「農業だけでは仕事が足りないのでは?」という懸念も解消されます。
懸念4:技術革新が停滞するのでは?
技術革新は試行錯誤(try and error)の積み重ねです。しかし農業は人が直接口にするものなので「最新技術だから即導入」という姿勢はむしろ危険です。たとえば遺伝子組み換え作物についても短期的には安全とされても、長期的な健康リスク(発がん率など)はまだ十分にわかっていません。したがって、むしろ公営化によって「慎重で保守的な技術採用」が担保されることが望ましいといえます。
公営化のメリット整理
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ソ連・中国との違い
過去の失敗は中央集権的で現場に対応できなかったからです。日本型では「市町村レベルでの運営」とすることで、現場の柔軟性を確保できます。 -
安全性の担保
民営化や拝金主義では、コストカットのために中国で実際に起きた「ミルクにメラミン混入」のような事件が再発しかねません。営利よりも公共性を重視する公営化こそ安全性を担保できます。 -
大地主問題の解消
日本では戦後の農地改革で大地主はほぼ解消されましたが、農地というのは限られた資産であり、個人所有に任せると再び不平等が生じやすくなります。公的機関が所有することで「誰かが農地を独占する」リスクを回避できます。アルゼンチンの経済衰退は大地主が原因とも言われています。 -
担い手不足の解消
公務員としての安定雇用が保証されれば、若者にとって農業は「安心して選べる職業」となり、担い手不足の問題を解決できます。 -
小規模分散農業の効率化
現状、日本は1ヘクタールあたりの農業従事者数が海外より多く非効率です。例えばアメリカでは1人あたり数十ヘクタールを管理しています。これを公営化による集約で解決すれば、大規模化・機械化が進み、生産性が高まります。 -
食料安全保障の強化
米はコーヒーや果物とは違い「なくなってはいけない作物」です。食料自給率を高めるためには補助金や公的資金が不可避ですが、それを民間に回すよりも「公的農家」として直接運営する方がシンプルで効率的です。
試算例:備蓄米を通じたコスト効果
仮に年間500万トンのコメ需要に対して10%(50万トン)が余剰になったとします。これを備蓄に回せば、食料危機時に数か月分の国家備蓄となり、輸入停止リスクを大幅に軽減できます。備蓄費用はかかりますが、国防と同じく「保険」としての価値が極めて大きいのです。
結論
農業の公営化は単に「社会主義的な理想論」ではなく、むしろ日本の現実的課題(担い手不足・規模の非効率・自給率の低さ・安全性確保)に応える解決策となりえます。
中央集権的に失敗したソ連・中国とは違い、日本では市町村主体で現場に即した運営を行うことで、柔軟かつ効率的に実現可能です。
「お米はなくなってはいけない作物」という前提に立てば、公営化はむしろ自然な施策といえるでしょう。
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