JPYCや暗号通貨決済を使ってわかった「11の障壁」
― なぜWeb3決済は、いまだに現実世界で広がらないのか ―
最近、JPYC(日本円連動ステーブルコイン)を使って実際に決済テストをしてみた。
結果として、ブロックチェーンの透明性や自動化の可能性は確かに魅力的だった。
しかし――実際にユーザーが使うには、あまりにも障壁が高いと感じざるを得なかった。
以下は、実際に試して見えてきた「11のリアルな壁」である。
① とにかく複雑すぎる
ウォレット作成、秘密鍵の管理、ネットワーク選択、トークンインポート…。
普通の人にはどこから手をつけていいか分からない。
「お金を送る」だけなのに、ITリテラシーがかなり要求される。
② JPYCを買うまでのハードルが高い
JPYC EXで購入するには、マイナンバーカードの6桁以上の署名用パスワードが必要。
しかもNFC対応スマホが必須。
マイナンバー連携に慣れていない人は、ここで離脱する。
③ JPYCを買っても送金できない「ガス代の罠」
JPYCを買っただけでは送金できない。
別途、ガス代(POLまたはMATIC)を購入しないとトランザクションが動かない。
「日本円で買ったのに動かせない」という理不尽さ。
④ コントラクトアドレスを間違えると資産が消える
JPYCには複数のネットワーク版が存在し、
正しいコントラクトアドレスを手入力で設定しなければならない。
1文字でも間違えると送金失敗。最悪、資産が消える。
⑤ ネットワークを間違えると送金できない
Ethereum、Polygon、Arbitrum…名前は似ているが互換性はない。
ウォレットのネットワークを間違えるだけで、送金が永遠に届かない。
⑥ 最低購入金額が高すぎる
ガス代トークン(POL)が約4,000円分、JPYCも3,000円以上必要。
「ちょっと試したい」ユーザーが気軽に触れない金額設定になっている。
⑦ 聞いたことのないアプリを複数インストールする必要
MetaMask、eKYCアプリ、JPYC EXなど、複数アプリの登録が必要。
それぞれに本人確認や秘密鍵バックアップが求められ、混乱する。
⑧ システム連携が極めて難しい
API経由でトランザクションを参照することはできるが、
「即時決済」や「双方向通信」は事実上不可能。
外部システムと統合して使うには、ブロックチェーンの知識+構築コストが大きすぎる。
⑨ 銀行振込と本質的に変わらない
入金確認は非同期。
結局「支払われたかどうか」をシステムで確認する必要があり、
スピードも利便性も銀行振込と大差ない。
⑩ 聞き慣れないプロバイダ(BANXAなど)が登場
ガス代購入時に「BANXA」など聞き慣れない海外決済サービスが登場する。
英語サイト・高いガス代・クレカ決済…。
これも多くのユーザーにとって心理的ハードルとなる。
⑪ 実はPayPayやメルペイが「透明化」すれば不要?
もしPayPayやメルペイが取引履歴を匿名化した上でオープンAPI公開すれば、
ブロックチェーンを使わなくても、ほぼ同等の透明性・追跡性が実現できる。
「既存決済のオープン化」が進めば、JPYCの存在意義すら薄れる可能性がある。
しかし、JPYCの「匿名トランザクション」はそもそも誰のものか分からない設計ですが、PayPayやMerpayは最初から「誰の取引か分かる」KYC基盤の上に構築されています。
このため、もし取引履歴をハッシュ化・アドレス化して公開しても、その変換テーブル(ハッシュ⇔ユーザー)を内部に持っている限り、「個人情報扱い」になります。
(=内部的に誰の取引かわかるため「匿名」とは見なされません)
日本の個人情報保護委員会(PPC)は明確にこう述べています👇
匿名加工情報であっても、事業者が再識別可能な情報を保持している場合、
個人情報として扱われる可能性がある。
つまり、PayPay社やMerpay社が:
-
「この取引は誰のものか」を知っている
-
KYC情報をデータベースに保持している
この状態で一部データだけを抽出・公開すると、形式的に匿名でも法的には匿名ではない。
この点で、ブロックチェーンの「真の匿名性」とは根本的に異なります。
💬 まとめ
JPYCは理想的な日本円トークンだが、現状の運用はまだ「開発者向け」だ。
ガス代、ネットワーク、本人確認など、一般ユーザーが気軽に使うには遠い世界と感じる。
将来、ウォレットや本人確認がOSレベルに統合され、「ワンタップで送金」できるようになるまで、JPYC決済はまだ「実験段階」と言えるだろう。
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