世界的な通貨安時代と銀行ビジネスの行方
「貸出利息で稼ぐモデル」は衰退し、銀行はどう縮小していくのか?
近年、各国の中央銀行と政府は、景気対策・財政拡大・高齢化社会への対応などを背景に、国債を大量に発行し続けています。
そして中央銀行は国債を買い支え、実質的に“通貨を擦り続けている”状態です。
この流れは止まるどころか、むしろ各国で加速しています。
公然と「通貨安」を政治目標に掲げる国は多くないものの、実態としては 自国通貨の価値を下げ、輸出を促し、債務負担を相対的に軽くする方向に動いている国が多いのが現代です。
こうした環境が続くと何が起こるのか?
最も大きな影響を受けるのは 銀行業態そのもの です。
■「金余り」の時代、銀行の主力収益が弱くなる
銀行の本業とは、本来はとてもシンプルです。
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預金を集める
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企業や個人に貸し出す
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その利ざやで稼ぐ
しかし現在、この“王道”が世界的に崩れつつあります。
●理由1:国が通貨を供給しすぎている
国債を大量発行し、中央銀行が買い取る構造は、民間に常に資金がジャブジャブと供給される状態を生みます。
つまり 企業が「銀行から借りなくてもいい」状態が続く。
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企業の内部留保は過去最大
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ベンチャー企業はVCやクラウドファンディングで調達
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資金需要が昔より明確に弱い
銀行が本業で稼ぐ余地がそもそも小さくなっているのです。
●理由2:低金利が長すぎた
欧州・日本は特に長期間低金利が続き、銀行の利ざやが極端に薄くなりました。
金利が少し上がっても、昔のような「貸せば儲かる」モデルには戻りません。
■銀行業は構造的に縮小(shrink)していく
世界的に見ても、銀行セクターは“緩やかな縮小”が既定路線です。
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貸出利息収入の比率は右肩下がり
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証券運用・手数料が増えても、収益の安定性は本業より弱い
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フィンテックが決済・送金・融資の一部を奪い続けている
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国が通貨を供給し続ける限り、銀行は資金の「供給者」としての役割を失う
つまり、銀行の中心的なポジションは “稼ぐ産業” → “維持管理の産業” に変わりつつあります。
■重要なのは「ゆっくり縮小させる」こと
銀行はインフラ産業です。
メガバンクが突然破綻すると、
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預金保護のため膨大な税金負担
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決済システムが停止し社会的パニック
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国債市場や企業資金繰りの混乱
など、社会全体に影響が波及します。
日本も1990年代の 住専問題 や 金融危機 で痛い経験をしています。
そのため、世界の政策当局が今後やるべきは…
✔ 銀行をゆっくり縮小(soft shrink)させる
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不良債権を一気に吐き出させない
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急激に役割を失わせない
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地銀再編のように徐々に統合
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“金融インフラ”としての最低限の規模は維持
という 「段階的な小型化」 です。
クックパッドの衰退も象徴的だ。
YouTubeを中心とした「無料動画×広告モデル」が世界のデファクトスタンダードになった時点で、レシピ閲覧課金という旧来モデルが崩壊するのは時間の問題だった。
にもかかわらず、彼らは大胆なビジネスモデル転換をせず、撤退戦略やブログ型SEOモデルへの移行、コミュニティ強化などの代替路線を取らなかった。
その結果が、現在の急激な凋落だ。
これは単なる一企業の話ではない。
むしろ今後、銀行の役割と構造は同じ運命を辿る可能性がある。
世界的に「貸出利息で稼ぐモデル」はすでに終わりつつある。
フィンテック、信用スコアの民営化、DeFi、海外では口座維持無料が当たり前の状況
銀行業そのものが"高コスト体質の既存メディア"と同じ立場に追いやられている。
だから本質的な課題は
どう生き残るかではなく、どう縮小するか。
もう「拡大・維持」のフェーズではない。
日本の銀行セクターがハードランディング(破綻や信用収縮)するか、ソフトランディング(段階的縮小)するかは、日本経済、さらには世界金融システムにも連鎖する。
現状の日本経済は、「これまでの成功モデルにしがみつくほど衰退を加速させる」という構造的な問題を抱えている。
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既得権
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縦割り
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空気で意思決定
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失敗を認めない文化
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撤退より継続を選ぶ官僚システム
それらが、変化を拒み、「延命=衰退の最適化」を生み続けている。
YouTubeに駆逐されたクックパッドと同じように、銀行・放送局・新聞・教育システム・行政システム
変わらなかった組織ほど、外から破壊される。
そして、その淘汰はもう未来の話ではなく、すでに進行中だ。
■まとめ:銀行は“巨大な収益産業”ではなくなる
これからの時代に起こることを整理すると、こうなります。
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各国は国債を増やし続け、通貨供給も増やし続ける
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その結果、資金が余る → 企業は借りなくなる
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銀行は貸出利ざやで稼げない
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手数料や運用にシフトするが、安定性は低い
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銀行業は構造的に縮小
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ただし急に潰すと社会が壊れるので、ソフトランディング型の縮小が必要
銀行は長く「経済の中心にある産業」でしたが、これからは “社会基盤として残るが、巨大産業ではない存在” へと変わっていく可能性が高いと言えます。
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