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AI時代における内製化はなぜ減らす選択肢が合理的なのか

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2021年に書いた「システム内製化の闇」を前提に、2026年現在のAI環境を踏まえて、CTO・経営者目線で整理します。

当時から一貫しているのは、「内製化は万能ではない」という点です。
そしてAIの登場によって、この前提はさらに強まっています。

結論から言うと、内製化は強化する対象ではなく、むしろ適切に縮小・再設計すべきフェーズに入っています。


AIは内製化を加速させたのか?

一見すると、AIは内製化を後押しします。

・外注しなくても開発できる
・少人数で回せる
・スピードが上がる

ただし、経営視点では見方が変わります。

AIが変えたのは「開発力」ではなく「調達構造」です。


外注のハードルが消えた

従来の外注には明確な課題がありました。

・品質が読めない
・ブラックボックス化する
・見積もりの妥当性が分からない

しかしAIの介在によって、

・コードレビューの精度が上がる
・仕様理解の補助ができる
・ドキュメント生成が容易

となり、外注のリスクが大きく低減しています。

これはつまり、「内製化しなければならない理由」が一部消えたことを意味します。


内製化のデメリットはむしろ増幅する

一方で、内製化特有の問題はそのまま残ります。

・解雇できない
・生産性の比較ができない
・属人化する
・社内政治が発生する

そしてAI時代では、これらがより顕著になります。

理由は、技術による差が見えにくくなるからです。


社内政治と調整コストの実態

ここはCTO・経営者として最も見落としやすいポイントです。

内製化が進み、かつAIで技術差が見えにくくなると、組織のエネルギーは「開発」ではなく「調整」に流れます。

例えば、日常的に発生するのは以下のような意思決定です。

・企画のAさんの案件だから優先順位を上げる/下げる
・エンジニアのBさんは衝突しやすいので、簡単な案件だけを振る
・特定メンバーに負荷をかけないようにタスクを歪める

これはすでに「最適な開発」ではなく「人間関係を前提にした開発」です。

さらに管理職側でも同様です。

・One on Oneミーティングでスケジュールが埋まり、本来の意思決定に時間が割けない
・OKRや評価目標の設計・レビューに多くの時間を使う

これらは本来、組織を良くするための仕組みですが、過剰になると単なる運用コストになります。

また個人レベルでも歪みが発生します。

・出世競争の中で論破やマウンティングが発生する
・「舐められたら終わり」という空気が生まれる
・昇給や評価が期待値に届かないと不満が蓄積する

さらに本質的ではないコミュニケーションも増えます。

・業績に直結する議論よりも、飲み会などの関係構築が優先される

これらはすべて、内製化における「見えないコスト」です。

AIによって開発効率が上がっても、このコストは自動では減りません。
むしろ、技術で差がつかない分だけ、こうした調整コストの比重が上がります。


技術で評価できない組織の末路

アウトプットが均一化すると、評価は人に寄ります。

・説明がうまい
・調整がうまい
・上に好かれる

結果として、エンジニア組織は「技術組織」ではなく「調整組織」に近づきます。

これは2021年時点で指摘した「社内政治の蔓延」が、より純度高く現れる状態です。


推奨構成:正社員1名+業務委託5名

現実的な解としては、

「チームリーダー1名(正社員)+業務委託5名」

という構成がバランスが良いです。


チームリーダー(正社員)

・意思決定
・品質の最終責任
・ドメイン理解
・外部との調整

ここだけを内製化します。


業務委託エンジニア(5名)

前提として、AIを使いこなす人材を配置します。


この構成が機能する理由

1. 生産性を比較できる

業務委託であれば、

・成果が出ない場合は入れ替え
・優秀な人材に寄せる

といった判断が可能です。


2. 政治コストが低い

業務委託は評価がシンプルです。

・納期
・品質
・コミュニケーション

昇進や社内評価が絡まないため、無駄な調整が減ります。


3. AIとの相性が良い

AIによって

・スキル差が縮まる
・アウトプットが安定する

ため、「誰を使うか」のリスクが下がります。


投資家の見方と現実のズレ

ここで一つ重要な視点があります。

例えば、SHIFTのような企業は、売上自体は伸び続けています。

一方で株価は伸び悩む、あるいは下落する局面も見られます。

これは投資家が

「AIによって内製化が進み、外注需要は減る」

と見ているためです。

しかし現実は逆です。

・AIによって外注の品質が担保しやすくなった
・発注の心理的ハードルが下がった
・短期で切り替えられる体制が作りやすくなった

結果として、外注需要はむしろ伸びています。

つまり、

市場の期待(内製化が進む)
実態(外注が伸びる)

にギャップがある状態です。


内製化は「どこまでやらないか」が重要

重要なのは、内製化をやめることではありません。

・意思決定
・ドメイン知識
・品質判断

は内製化すべきです。

一方で、

・実装
・作業
・短期タスク

は外部化した方が合理的です。


なぜ「内製化の歪み」を理解し、実行できるCTOは少ないのか

ここまで、AI時代における内製化の構造的な問題と、その対処として「内製化を減らす」という選択肢について整理してきました。

では、この前提を理解し、実際に組織として実行できているCTOはどれくらいいるのか。

結論から言うと、極めて少数です。

理由はシンプルに見えて、かなり根が深いものです。


① 組織の大きさが「市場価値」になるバイアス

多くのCTOにとって、「何人のエンジニアを率いているか」はそのまま評価指標になります。

・エンジニア100人の組織をマネジメントしている
・複数チームを統括している

こういった実績は、転職市場や対外的なプレゼンスにおいて強い意味を持ちます。

そのため、本来は

「6人で100人分の成果を出せるなら、組織は縮小すべき」

という判断が合理的であっても、自分の評価を下げる方向の意思決定は極めて難しくなります。

組織を大きくすることが正義だった時代の価値観が、いまだに強く残っています。


② 評価とマネジメントの「恐怖」

内製化が進むと、CTOの仕事は大きく変質します。

技術的な意思決定よりも、

・昇給の調整
・キャリアパスの設計
・不満の吸収
・社内政治のバランス取り

といった「人のマネジメント」が業務の中心になります。

実態として、多くのCTOはこの領域にリソースの大半を使っています。

その状態で、

「正社員を減らし、業務委託中心にする」
「成果ベースで評価する」

という判断をすることは、自らの役割そのものを縮小する行為に近いです。

さらに言えば、

エンジニアリングマネジメントという名の聖域を壊す意思決定でもあります。

合理的であることは理解できても、心理的に実行できないケースがほとんどです。


③ 「正社員=資産」という前提の残存

経営層からの圧力も無視できません。

多くの企業では依然として、

・正社員を増やすこと=投資
・知見を社内に蓄積すること=競争力

という考え方が根強く残っています。

しかし、AIによって状況は変わっています。

・技術の陳腐化が早い
・人の記憶に頼る必要がない

こうした環境では、正社員中心の組織は資産ではなく、負債に変わる可能性があります。

ただし、この構造を経営層に対して論理的に説明し、方針転換まで持っていけるCTOは多くありません。


引き算ができる組織だけが勝つ

ここまでの3点に共通しているのは、「足し算の経営」から抜け出せないという点です。

・人を増やす
・組織を拡大する
・機能を追加する

これらは一見わかりやすく、評価もしやすいです。

一方で、

・人を減らす
・構造をシンプルにする
・外部化する

といった「引き算」は、合理的であっても評価されにくく、意思決定の難易度も高くなります。

 

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