早いは正義から安いは正義
IT市場が成長期の時はシステム開発の着手から本番リリースまではできるだけ早くないといけない時代でした。
早いは正義の時代で、どのIT企業もいかに本番リリースを早くするかにこだわっていたかと思います。
その理由は2つあるかと思います。
- 先行優位
- 時間が長引けばそれだけ費用がかかる
- 今の先行優位は考えられない
- 人数が多くなればその分開発効率が悪くなる
- 人件費はカットしにくい
- 一旦導入すると戻せない
- サービス利用料を低く設定できない
- SaaSは無料にするべき
- 無料であれば賃金の低さは問題にならない
- 日本人は買い物が不得意
- 今だにマーケティングが強い企業が優位にある現実
- 今までは価格競争をしないのが事業の鉄則だった
- システムに関してはまとめ買いは通用しない
- 無料SaaSが産まれるのでは
先行優位
新しい市場で先に参入してサービスをリリースした方が、その時点ではライバルが少ないのでそのサービスが成長しやすくなります。
先にサービスが成長すれば、他の似たようなサービスが出てきても、ユーザーの認知度は先のサービスの方が高いです。
先のサービスのシステムにユーザーが慣れてしまうので、後からのサービスは使いづらく感じてしまうのではと思います。
後からのサービスはそのUXと認知度を既存のサービスを超えていかないといけないので、ハードルが高くなるのではと思います。
時間が長引けばそれだけ費用がかかる
システム開発はエンジニアの人件費がほとんどです。
プロジェクトの初めにエンジニアを集めて、どれくらいの期間で作り上げるという計画を立てます。
その計画がずれて遅れてしまうとその遅れた分の人件費がかさみます。
例えば、10人のエンジニアが半年でできる予定のシステム開発があったとします。
一人当たりの単価70万円 x 10人 x 6ヶ月 = 4200万円ぐらいのプロジェクトという計画だったところ6ヶ月が1年まで伸びてしまったら8400万円になってしまいます。
遅れれば遅れるほど費用が膨れ上がるので、経営的にはできるだけ早くリリースしたいと思います。
今の先行優位は考えられない
しかし、今現状のIT市場は成長期ではなく成熟期なのではと過去の記事で説明しています。
2020年を過ぎた今事業を起こしても成功する確率は年々減ってくると説明しています。
FacebookがメタなりThreadsなり多額の投資をかけて新規事業を作っても不発に終わっているのが、その難しさを物語っているかと思います。
そういった新しい市場がなくIT全体が成熟期の今、できるだけ早くサービスをリリースした所で既に同じようなサービスは存在しているので、先行優位にはならないです。
人数が多くなればその分開発効率が悪くなる
人数が多く慣ればその分コミュニケーションコストが高くなります。
組織の人数が多く慣れば評価や裁量権、権限などの設計、設定も複雑になってきます。
先ほどの10人のエンジニアが半年で完成するシステムがあったとします。
じゃぁ、20人にすれば3ヶ月で終わるのかというと効率が悪くなるのでそうではないかと思います。
もちろん同じ人数で計画よりもサービスリリースが伸びた場合はその分人件費がかさみます。
以前はその効率の悪さを知っていたとしても、早いが正義だったので大人数を投下するプロジェクトが多くありました。
未だに「早いは正義」という考え方が一般常識だと思うので、いろいろな所で弊害が出て来ているのではと思います。
人件費はカットしにくい
できるだけサービスリリースを早くするという事で効率が悪くても、大人数を雇ってしまったら、リリース後でも解雇ができないです。
そうなると、人件費の運用コストは増えてままで運用していくことになります。
業務委託や外注を使えば契約終了という形で人件費を減らせますが、離任するエンジニアの引き継ぎのコストがかかってしまいます。
各エンジニアの開発部分はそのエンジニアしか知らないというようなブラックボックスの可能性があるので、離任させられない、もしくは引き継ぎにかなりの時間を要してしまうという事も考えられます。
一旦導入すると戻せない
SAP、セールスフォース、AWSなどのソフトウェア、SaaSは初期導入が早くできるのがメリットです。
スクラッチ VS ERPのSAP, CRMのSalesForceのページで説明しました。
運用コストは高いので一旦導入をしてしまうと作り直しというこれまた大きな費用を要してしまいます。
導入当時は「早いが正義」だったので、多くの企業が運用コストの事を考えるよりも導入期間の短さを優先したのではと思います。
例え「安いが正義」だと気づいた企業があったとしても、これらの外部サービス依存からの脱却はコスト面からかなり難しいかと思います。
それは運用コストを気にしている企業がその運用コストを下げるためにコストをかけて安いソリューションに移るという経営判断になるからです。
例えば、SAPの年間運用保守費が1億円として、コスト削減したいので、フルスクラッチでシステムを作り直したいと考えます。
そのシステムの作り直しが2年で5億円かかるとなると、いくらシステム切り替え後の運用コストが100万円になったとしても元を取るのに5年はかかってしまうという事になります。
つまり、運用コストを下げるためにシステム切り替えコストがかかるというジレンマに陥ってしまいます。
サービス利用料を低く設定できない
そうなると、ずっとコストを下げられないまま、運用していくことになるのでどうしてもサービス利用料を低く設定できません。
サービス利用料が低く設定できないと価格競争で勝てなくなってしまい、企業としては不利な立場になります。
それだけではなく、サービス利用料が安くないとイノベーションにもつながらないのではと思います。
SaaSは無料にするべき
PayPayの手数料率2%では日本にイノベーションはおきないのページでは手数料が高いとなぜイノベーションが起きないのかを説明しました。
手数料サービスだけでなく、SaaSなどのWEBサービスでも無料にしなければいけないのではと思います。
事業会社でのCTOの求人で想定内と想定外のページで記載したように未だに勤怠管理をタイムカードで行なっている所もあります。
会社がSaaSなどのソリューションを知らないという訳ではなく、SaaSの方が高いからという経済合理的な上での判断かと思います。
勤怠管理と検索すると山のように数々の企業が勤怠管理システムを提供しています。
しかしながら、どの勤怠管理システムも無料はありません。
限定的に無料で使えるサービスはあれど、実用的に使えるレベルでの無料サービスはないです。
タイムカードを使ってた方が勤怠管理システムを使うよりコスパがいいという判断で勤怠管理システムを使わないという判断になっています。
勤怠管理システムだけでなく、便利でいいSaaSはあるけども費用が高いという事でそれらのSaaSは敬遠され業界的にも進歩発展ができなくなって来ます。
無料であれば賃金の低さは問題にならない
IT,AI,DXの進歩の妨げが人件費の低さだと言う事がよく言われている定説でもあります。
タイムカードの例で言うと、スタッフがタイムカードの時刻をエクセルにうつして計算する作業が必要となります。
勤怠管理のSaaSはその作業が不要なので、勤怠管理のSaaSとその作業の人件費とどちらがコストがかかるのかという事になります。
それで今の賃金体系ではタイムカードで打刻してスタッフが手作業で集計した方が勤怠管理のSaaSより安いという判断で未だにタイムカードを利用しています。
そういった理由で賃金が低いとITの進歩発展が遅れるといった説もあります。
その定説もあると思いますが、そもそもSaaSが無料で使えれば手作業と費用を検討する事なくSaaSを選択する事になるかと思います。
日本人は買い物が不得意
海外に住んでいた経験で感じた日本人の不得意な部分は買い物にあるかと思います。
インドに住む前までは、お金を払う寸前の金額交渉などはしたことがなかったです。
しかし、インド在住の時はオートリキシャに乗る時、市場で服を買う時でも金額交渉が必須です。
慣れるまでは値下げ交渉するのが面倒で高い値段で買わされたりもしました。
慣れるまではぼったくろうとする文化にも嫌気が差していました。
値段交渉をするとケチと思われる事に抵抗があるという日本人は多いのではと思います。
こういった買い物が不得意な点は個人単位だけでなく企業間、政府間でも不得意なのではと思います。
ODAでも中国に比べれば、何の戦略、交渉もなくただお金をばら撒いているように見えます。
企業間でも支払いに関してケチるという事をしなさすぎなのではと思います。
それらの影響もあって、高額サービスのSAPやセールスフォース、AWSの導入に踏み切っているのではと思います。
いいディールでの買い物の仕方などはもっと海外に見習ってもいいのではと思います。
今だにマーケティングが強い企業が優位にある現実
20年以上前に予想していたことで、情報が平等になれば営業、マーケティングの必要性はなくなるかと思っていました。
しかし、実際は真逆でより、マーケティングが強い企業が勝つ世の中になってしまっているのではと思います。
その原因は前述の買う時に合理的な判断をしていないからなのではと思います。
AWSの洗脳 9割のエンジニアがかかっている メリットなしでも使いたくなる理由
過去のページでも説明したようにAWSの導入はあまりにもデメリットが上回っているにもかかわらず、シェアは圧倒的に一番です。
これもこういった、日本人の買い物が不得意といった所が原因なのかもしれないです。
安かろう悪かろうと言う言葉も日本人の買い物を不得意にさせる言葉かと思います。
ただ単に値段だけで安いのが悪くて、高いのが良いと言う安直な見方しかできない証拠だと思います。
しっかりと値段を関係なしに中身を見て質を見定めるべきかと思います。
例えば、スポーツドリンクなどでも、スポーツドリンクと謳っていながら人工甘味料が入っていて実際飲んでも水分の吸収力が悪かった事がありました。
中身の成分を見ていい成分が入っている飲み物は比較的高価なのは確かですが、日本では確認しなくても質を担保してくれています。
日本に住んでいると商品・サービスの質がいいため買い物をする前に確認するという行動をしなくなってしまうのではと思います。
何でも買い物をする人自身で確認を怠っている為、マーケティングに流され、その結果マーケティングに強い企業が優位に立ってしまうのではと思います。
今までは価格競争をしないのが事業の鉄則だった
新規事業などで同じ市場のライバルのサービスと比べると価格の安さだけがメリットの場合はその新規事業はうまくいかない、もしくはその案は通らないという鉄則がありました。
その理由はある市場で独占しているようなサービスがあった場合、売上高も高くなればそれに伴って仕入れもまとめ買いができて安価に仕入れる事ができます。
なので、仕入れと売上高の全体の金額が大きくなればなるほど、既に独占しているサービスの方が優位に働き、新規参入者の障壁は価格では勝てないという事になります。
しかし、独占しているサービスの中に前述した運用コストを考えずに「早いが正義」でサービスリリースしてしまって、必要以上に利用料が高いというサービスはあるのではと思います。
エンジニア目線のパーキンソンの法則のページで説明しているように大きくて、古い歴史のある組織はどうしても無駄も大きくなってしまうという事にもなります。
そういった中で、これからの時代も新規参入者が価格競争で勝てないという事になるとは考えづらいです。
システムに関してはまとめ買いは通用しない
仕入れがサーバーリソースという事になると、データ量が多くなると検索コストがどうしても相対的に高くなってしまいます。
それに対して、AWSなどのサーバーリソースは従量課金制なのでまとめ買いした所でちょっとした割引程度にしかならない
自社のオンプレミス環境でサーバーをまとめ買いすれば安くまかなえると思いますが、ビッグテックぐらいのアクセス数、トランザクション数でないとプラスにならないのではと思います。
アクセスの増減も日によって、季節によっても違ってくるのでまとめ買いをすれば損失を被る場合も考えられます。
なので、システムのサーバーリソースに関してはまとめ買いは通用しないのではと思います。
無料SaaSが産まれるのでは
PayPayの手数料率2%では日本にイノベーションはおきないのページの決済手数料は無料にすべきと同じでSaaSも無料になれば当然ユーザーも増えて社会の進歩発展になるかと思います。
時代的にも初期導入や開発を焦って早くサービスリリースするより長期的な運用コストを下げてサービスリリースする時代になってくるのではと思います。
そうした中でどれか一つの無料SaaSというビジネスモデルで利益が出るようになれば、続いて多くの無料SaaSが産まれてくるのではと期待をしています。
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